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第58話 好きなまま、失敗した

Author: 花柳響
last update publish date: 2026-08-27 06:01:28

「ああ。たぶん、そこから話した方がいい」

 愛が足りなかったから離婚したと思えれば、もっと簡単だった。

 景都は私を愛していなかった。仕事を選び、私の気持ちを見なかった。だから終わった。そう決めてしまえば、私は傷つけられただけの人でいられる。

「私も、好きだった」

 信号待ちの歩道で、今度は私から言った。

 景都の足が、わずかに止まる。

「聞こえた?」

「ああ。ただ、もう一度聞きたかった」

「確認しないで。恥ずかしいから」

 青信号になり、人の流れが動き出す。景都は私の半歩外側を歩いた。昔からの癖で車道側へ立っている。

「好きだったのに、家へ帰りたくない日があった」

「俺もあった」

 思わず横を見る。

「景都も?」

「君が怒ってるのは分かる。でも、何を間違えたかは分からない」

 景都は信号の向こうを見た。

「帰ったら、また何か言って、もっと怒らせる気がした」

「初めて聞いた」

「言わなかったから」
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